教育・研修・資格(令和3年度)

■令和3年度 雇用管理責任者研修会

令和3年11月8日

令和3年11月8日雇用管理責任者研修会が開催されました。今回の研修会は熊王講師による、『一から始める日本型インボイス制度』と題して、令和5年10月から始まるインボイス制度について、仕組みや事業者が対応すべき手続きのうち基本的な内容に絞り講義を頂きました。研修会はコロナ感染症対策のため、オンラインで30名の方に配信し、23名の方が会場で聴講しました。

一からはじめる「日本型インボイス制度」

大原大学院大学 熊王税理士事務所 税理士 熊王 征秀

税理士 熊王 征秀

インボイス制度の導入に伴い、どこの業界も試行錯誤しているようですが、消費税のインボイス制度は準備が100パーセントです。今からしっかり準備していけばそんなに厄介なものではありません。インボイス制度、これを「適格請求書等保存方式」と言いますが、これが導入されて何が変わるかというと、請求書、領収書の記載事項が若干増えるということです。手順としては、まず、申請して13桁の登録番号をもらいます。この登録番号を、自分が発行する領収書、請求書に、税率、税額と共に書かなければいけません。その準備を今から始めるということです。

まずは適格請求書発行事業者の登録申請書を提出して登録します。登録しなければインボイスを発行することはできません。売上げと仕入れは表裏一体の関係にありますから、自分の売上げは相手側の仕入れです。インボイスの導入によってどのように変わってくるかというと、売り手のほうは登録してインボイスを発行する。買い手のほうはインボイスがないと原則として仕入税額控除はできないということになります。

ただし、簡易課税制度の適用を受けるときは関係ありません。簡易課税制度の適用を受けるときには法定書類の保存は要件とされていませんので、インボイスの時代になってもこれは変わりません。本則課税というちょっと面倒な計算になり、ここでインボイスの保存が仕入税額控除の要件となってきます。年間5,000万円を超える規模の事業者は簡易課税という簡便計算が使えませんので、仕入控除税額の計算が面倒になります。

元請けの立場で考えますと。免税事業者に払った外注費は相手がインボイスの発行ができないので、仕入税額控除ができなくなります。仕入税額控除ができないということは、その分だけ払う税金が増えます。そこで、一部の建築業界では、免税の下請けに対して「登録してください」という要請を始めているようです。登録してもらわないと元請け側で仕入税額控除ができないから登録してくださいとお願いをしているのです。下請け業者は登録すると納税がセットで付いてくる。登録しないと取引を切られちゃうかもしれないので、背に腹は代えられないということで免税事業者が登録することになりそうです。そのときに気を付けてもらいたいのは、免税事業者は登録申請ができないということです。免税事業者が登録申請をする場合には、原則として、「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者にならなければ登録申請ができません。だから、免税事業者は取引先から要請されてインボイスを発行したい。適格請求書発行事業者になりたいというときは、「課税事業者選択届出書」を提出した上で登録申請という二段構えの手続きが必要になるのです。ただし、令和5年10月1日から登録する免税事業者は「課税事業者選択届出書」を提出しなくてよいという経過措置があります。

税理士 熊王 征秀

課税事業者はどうなのかということですが、課税事業者の登録は任意です。しかし、建設業界は基本的に登録は必要でしょう。事業者間の取引になりますので、登録申請は必要だと思います。インボイスの登録申請をすると税務署で審査が行われます。課税事業者でも、登録しなければインボイスを発行することはできません。

私はインボイスの導入後は免税事業者が外税で消費税をもらうことはできないと考えています。元請けにしてみたら、下請けが登録してくれないと仕入税額控除ができません。仕入税額控除ができないなら外税で消費税を払う必要はありません。なお、免税事業者は登録するとセットで納税が必要になります。売上高が何百万しかなくても登録したら納税義務者になるのだということを覚悟してください。

ところで、売上規模が1,000万円以下の免税事業者が取引先から要請されてインボイスの登録申請をするとします。今まで一度も消費税の申告なんかやったことがない免税事業者が初めて消費税の申告をやるわけです。消費税の計算は本則課税と簡易課税と2種類ありますが、難易度からいったら本則課税のほうがはるかに難しいのです。だから大方の小規模事業者が簡易課税制度の適用を受けると思います。

簡易課税による仕入控除税額は、卸売業9割、小売業8割、製造・建設業は7割、ただし材料の支給を受けたら6割といったように、全部で6種類の仕入率が決まっています。これを売上税額に乗じていきます、売上高さえ掴んでいれば自動的に仕入税額の計算ができるという簡便計算です。恐らくは、9割以上の小規模事業者が簡易課税の適用を受けると思います。簡易課税の適用を受けるためには「簡易課税制度選択届出書」という書類を提出する必要があることに注意してください。

インボイス制度の一番の問題点は、免税事業者はインボイスの発行ができないということです。免税事業者は消費税をもらっていながら納税していません。消費税をもらっているんだったら納税すればいいと思いませんか?私は単純にそう思います。あらかたの元請けは免税事業者にも消費税を上乗せして払っているわけですから、下請けに対し、「あなたには昔から消費税払っているでしょ?だったらなんで登録しないんですか。」って言われてしまいます。これは正論です。これを言われたらどうにもならない。下請けは、「だったらもうちょっと本体価格を上げてください」といったような交渉をしていくことが必要なんです。それをとにかく頑張ってやっていただくしかないと思っています。

税理士 熊王 征秀

免税事業者が全国でおよそ500万人(社)いるんです、だから、全事業者の7割くらいが免税事業者ということで数は多いですよね。インボイスの導入により、事業者との取引が大変なことになっていきます。これは価格交渉を粘り強くやるしかない。それを早めに準備しておく。だから、このインボイス制度というのは準備が100パーセントなんだと私は思っています。それと、登録して課税事業者になると「売上高の10%を丸々払わなきゃいけない」こんなふうに誤解している免税事業者が多いのですが、これは間違いです。

さっきも話しましたように、免税事業者が登録すると、ほとんどの方が簡易課税を使うはずです。そうすると、簡易課税の場合はみなし仕入率を使うことができます。卸売業だったら売上高の9割を仕入れとみなしてくれるわけだから、実質的な納税額は売上高の1%なんです。製造業や建設業の場合には7割を仕入れとみなしてくれますから、実質的な納税額は売上高の3%です。ただ、皆さんの業界の場合は、下請けさんは材料ないですよね。

たぶん全部元請けから支給されるはずです。そうすると売上高の実態は加工賃です。加工してお金をもらっている。そうすると7割じゃなくて6割しか控除できませんが、それでも売上高の4%です。下請業者はその4%をうまく価格交渉していくということです。元請けも、下請けの消費税分くらいは協力金のような名目で面倒見てあげるとか、そのあたりを頑張って、持ちつ持たれつでうまくやっていってほしいと思います。

厳しい言い方をするようですけれども、元請けと下請けで協力してやっていくしかないんじゃないか。こんなふうに思っています。しかし、あまりにも影響が大きいということで、経過措置が設けられています。どんな経過措置かというと、令和5年10月からいきなりダメということになると厳しいので、3年刻みで控除率を8割、5割とカウントダウンすることになっています。

具体的には令和5年10月から令和8年9月までは免税事業者に対する外注費も8割控除できます。その次の3年間、令和8年10月から令和11年9月までは5割控除できます。6年間の中で3年刻みで8割、5割と徐々にカウントダウンして、令和11年10月からは控除できなくなります。

いずれにしても、本番に向けて今年から来年にかけてやらなきゃいけないのは登録申請です。これをまず一番最初にやらなければいけない。それと免税事業者は価格交渉の準備、これを始めてください。今から始めても遅いくらいです。そうやって頑張っていかないと、大変な時代が来るということです。ぜひ明日からでも始めていただきたいと思います。

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