■育成就労制度の概要
令和7年7月10日
厚生労働省海外人材育成担当参事官室
海外人材育成対策専門官 児玉祐基
技能実習制度に替わって創設される育成就労制度が、令和9年4月1日から運用を開始する予定です。現在政府では、運用開始に向けて、省令の作成や受入れ対象分野の決定に向けた議論を進めています。本稿では、制度改正の背景、育成就労制度の概要及び今後のスケジュールを説明します。
1 制度改正の背景
技能実習制度は、開発途上地域等への技能等の移転による国際協力の推進を目的とする制度で、令和6年末時点で約46万人の技能実習生が我が国に在留しています。一方、制度目的と実態とのかい離や、一部の実習実施者による人権侵害行為や悪質な送出機関の存在が指摘されてきました。また、平成31年には深刻な人手不足への対応として特定技能制度(人材確保が困難な分野に限り即戦力となる外国人を受け入れる制度)が創設され、技能実習制度と特定技能制度の連続性も改善が求められてきました。
他方で、近年我が国の人手不足は一層深刻化しており、近隣諸国・地域も外国人労働者の受入れを拡大し国際的な人材獲得競争も激化しています。
今回の改正は、このような状況の中、我が国が外国人にとって魅力ある働き先として「選ばれる国」となり、長期にわたり我が国の産業を支える人材を確保することを目指すものです。
2 育成就労制度の概要
(1)制度の目的
育成就労制度の目的は、3年間の就労を通じて特定技能1号の技能水準の人材を育成し、我が国の人手不足分野における人材を確保することです。受入れ対象分野は、特定技能制度と原則一致させ、外国人は育成就労修了後に特定技能に移行し、我が国で長く就労できます。
(2)育成就労の区分
育成就労には、技能実習と同様、
・海外の子会社等から外国人を受け入れる単独型
・監理支援機関が送出国の送出機関からの取次ぎを受けて、外国人と就労先(育成就労実施者。以下「実施者」という。)との間の雇用関係の成立のあっせんを行った上で、実施者の指導監督等を行う監理型の2類型を設けています。
(3)基本方針及び分野別運用方針
本年3月に育成就労制度の基本的な事項等を示した基本方針が閣議決定されたところ、今後、受入れ対象分野ごとに、受入れ見込数等を示した分野別運用方針を作成することとしています。分野別運用方針は特定技能制度及び育成就労制度の基本方針及び分野別運用方針に関する有識者会議(以下「有識者会議」という。)の意見を聴いた上で決定します。
(4)育成就労計画の認定制度
育成就労制度では、育成就労外国人ごとに育成の目標や従事する業務等を定めた育成就労計画を実施者が作成し、外国人育成就労機構から認定要件を満たすとして認定を受けた上で、当該計画に基づき育成就労を実施しなければいけません。当該計画に基づいて育成就労を行わせていない場合等には当該計画の認定が取り消されます。
外国人が従事できる業務の範囲は特定技能制度における業務区分と同一ですが、実施者は当該業務区分の中で修得すべき主たる技能を定めて計画的な育成・評価を行う必要があります。また、外国人の権利保護や地域社会における共生等の観点から、日本語能力の目標を設け、段階的な日本語能力の向上を図る必要があります。本年4月に公表した育成就労法施行規則(省令)案の概要には、以下の認定要件を盛り込んでいます。
- ・育成就労の業務時間の3分の1以上必須業務(主たる技能を修得するために従事が必要な業務)に従事すること
- ・A2相当の日本語能力を目指す日本語講習の機会を100時間以上提供すること
- ・実施者ごとの受入れ人数枠を、実施者が優良な場合には拡大し、地方に住所を有する優良な実施者が優良な監理支援機関の監理支援を受ける場合にはさらに拡大すること
(5)外国人の来日手数料等の軽減
技能実習制度においては、一部の悪質な送出機関が外国人から高額な手数料を徴収し、これにより技能実習生が負う多額の借金が失踪の原因となる場合があると指摘されてきました。
このため、育成就労制度では、外国人が送出機関に支払う手数料等が高額とならないようにする仕組みを導入します。省令案の概要では、外国人が送出機関に支払う費用が、外国人の月給2か月分を超えないことを育成就労計画の認定要件としています。
(6)転籍(実施者の変更)
技能実習制度では、実習先の倒産や人権侵害等の「やむを得ない事情」がない限り、転籍は認められません。
育成就労制度では、外国人の労働者としての権利をより適切に保護するため、一定の要件の下で外国人本人の意向による転籍を認めます。具体的な要件は、同一業務区分内での転籍であること、一定の技能及び日本語の試験に合格していること、転籍先が適正であること、転籍元での就労期間(転籍制限期間)が1年以上2年以下の範囲で分野ごとに定める期間を超えていること等です。1年を超える転籍制限期間を設定する場合には、育成就労の開始から1年経過後に昇給等の待遇向上を図ることが必要です。また、本人意向の転籍に当たっては、転籍元が負担した外国人受入れのための初期費用の一部が転籍先から補塡されます。
(7)監理支援機関の許可制度
技能実習制度では、一部の監理団体が指導監督等の機能を十分に果たせていないとの批判がありました。育成就労制度の監理支援機関は、独立性・中立性の強化(外部監査人の設置の義務化、実施者と密接な関係を有する役職員の業務関与の制限等)や、傘下の実施者数に応じた職員の配置等、許可要件を厳格化した上で、新たに許可を受けさせることとしました。省令案の概要には、以下の許可要件を盛り込んでいます。
- ・傘下の実施者が原則2以上となること
- ・監理支援の実務に従事する役職員1人当たり、実施者数が8者未満かつ育成就労外国人数が40人未満であること
(8)外国人育成就労機構
現在、技能実習計画の認定、実習実施者や監理団体の指導、外国人の支援等の事務を担っている外国人技能実習機構は、外国人育成就労機構に改組し、指導や支援の機能を強化します。
3 今後のスケジュール
運用開始に向けたスケジュールは図のとおりです。本年7月現在は、省令案の概要に対するパブリックコメントを踏まえて省令の作成を行っています。並行して有識者会議において分野別運用方針の議論を進めつつ、特定技能制度及び育成就労制度の技能評価に関する専門家会議において技能評価試験等の検討・議論を行っています。
分野別運用方針は本年12月頃決定予定で、これにより育成就労制度の受入れ対象分野及び受入れ見込数が決まるほか、当該分野での受入れに特有のルール(主たる技能や転籍制限期間その他上乗せ要件)も概ね決まります。また、施行後速やかに育成就労外国人を受け入れられるよう、施行日前から監理支援機関の許可申請や育成就労計画の認定申請等の必要な手続きを行えるようにする予定です。
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